紅の月3 『醜と狂』  作:ムク

「航平・・・」

俺は航平の顔を覗き込んだ。
あんなに冷静に強気に話しているように見えた航平は額に汗をかいていた。
膝は笑い、やっと口から出た言葉も震えていた。
「け、圭太・・・。俺・・・」

航平はその場に崩れ落ちた。
それを合図に周りでこちらを見ていた群衆が一斉に走り出した。
向かうは校門。
教師達が本気かもしれないと分かった以上、身の安全が第一である。

バーーーーーン!!
またしても銃声があがった。
しかし、それの被害にあった者は居なかった。
その弾丸は空高く舞い上がった。

背の高い歴史の女教師が怒鳴る。
「今すぐ各教室に移動!ゲームを拒否する者の命の保障はしない!」
多くの生徒の悲鳴が響く。

その中に俺は女教師の呟きと嘲るような笑いを捕らえた。
「ゲームに参加しても命の保障はしないけどね」

悲鳴とともに昇降口や開いたままの窓から500人以上の生徒が校舎に飛び込む。
その姿は大変醜かった。
自分は助かろうと我先にと走っていく。

先程死した男子生徒の遺体の上を駆け抜ける者。
他人をかき分け、罵声と暴力を繰り返す者。
思わず転倒してしまう者とその上を構わず走るもの。

これが死の恐怖か・・・。
俺達も行かなきゃ・・・。
アリと俺は航平に肩を貸し昇降口から校舎内に入っていった。

途中、航平がポツリと言った。
「圭太、朝の事・・・悪かった」
「いや、俺の方こそ悪かった」

教室に辿り着くと当然だがピリピリした空気だった。
数名顔や手足に傷があったり、制服の真っ白な夏服が黒く汚れている者がいた。
欠席や遅刻、拒否や逃亡をした者は居ないようで、30席全ての席が埋まっていた。

その時、古びた鉄が擦れる音とともに担任の男教師、三島が教室に入ってきた。
教室内の緊迫が増す。
数名の息を呑む音も聞こえた。

そんな重苦しい空気の中口を開いたのは三島だった。
「皆、おはよう」
いつもと同じ優しい声に俺は顔を上げる。

三島はミッシーの愛称でも親しまれ、人気の高い教師である。
生徒の事を本気で考え、悩み事は親身になって考えられる良い教師だ。
そんな三島がこんなことに賛成しているとは思えなかった。
「ミッシー・・・?」
俺は小声で問いかける。
しかしその声が震えていることは皆にも分かった。

「何だ?」
その声も優しかった。
「ミッシーはゲームなんてしないよね?俺らゲームなんかしなくていいんだよね!?」
最後の方は叫ぶように言い切った俺に、三島はゆっくり諭すように語り掛けた。

「これは皆に聞いて欲しい。今、学力低下や色んな問題が取り上げられている。皆も知ってるよな?」
皆が静かに頷く。
「学校側は様々な対策を施したが無駄だった。だから駄目な人材を消すことにした。最高の案だろ」

狂ってる・・・。
きっと話を聞いた生徒全員がそう思ったに違いない。



コメント

3点 YADO 2009/08/19 21:02
今後、漫画や映画のバトルロワイヤルとは違う展開になりそうで楽しみです♪
でも・・・キャラ設定とか大変そうですね。汗
ガンバです!!


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