悪魔の手先 NO.9  作:キョン

悪寒の原因…大方の読者の方はお気づきだろうと思う。

そう……この作者にとってはなくてはならない存在となりつつあるフラグたての王者…ご存じ”アレ”だ。

「あひゃァァァァァァァぅぅぅォォォォあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

意味不明な悲鳴を上げた。それはうまい具合に2人の声が重なった瞬間だった。そう、僕らは一人じゃない!!

などと悠長に言っている場合ではない。

声のシンクロとほぼ同時と言うくらいの速度で天王が扉を蹴破ってきた。バアンッという音とともに扉に変な傷が入った音が聞こえた。

ミキッという音だったがそんな事を気にしている場合ではなかった。

ちょっと!!これどうにかしてよ!!と助けを求めたい気分だったが、その夢はコンマ3秒で消え去ることになる。

ズオオォォォォォォォォォオオオという効果音…いやズゴオオオォォォォォォォォォォかもしれないしズヴォォォォォォォォかもしれないがその辺はどうだっていい。

とにかく機嫌が悪いことは明らかだった。目はいつものとても濃い黒色をしたものではなく、全体が黒くなり(そんなことはないのだろうけど、そう見えた)きもちつりあがったようにも見えた。

あの効果音と謎の炎のような薄赤い物体が背後で揺らめいている(ように見える)。”アレ”はしょせん昆虫。圧倒的実力差と、究極の危機的状況から本能の赴くまま逃げだした。

その刹那―――小石が”アレ”の体を貫いて床にめり込んだ。人間で言う謎の液体が流れ出し、貫かれた穴からはその液体が噴出していた。

小石が飛んできた方には右手で小石を軽く空中に放り投げてとり、投げてとりを繰り返している。その規則的に聞こえてくる音と規則的な運動の合間にもズオオォォォォォォォォォオオオは止んでいなかった。

いや、むしろさっきよりも悪化している。炎がドス黒く変色している。あ、死んだかもね。

そこに出本が入ってきた。「おいおい、なんだなんだぁ?」と言いながら。

出本は天王の異常な様子に気付いたようで、げげっと声をあげる。

そういえば、あいつは1回これの恐ろしさを体験してたんだっけ。足がすくんでいる。

私とナミはお互い抱き合っていた。カチカチと歯の打ち合わさる音が聞こえた。

「覚悟はいいな」

えらく低いトーンで言ってきた。声などもちろん出ない。

「死にさらせやぁぁぁ!!!!!!!!」という声と記憶が途切れた瞬間は同時だった。

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10分くらいは気絶していたように思う。時計はないから正確にはわからないがそんなもんだろう。

俺が目を開けたときには門戸と水岡の部屋がゴキブリだらけだった。

「起きたか」

そう言ってきたのは部屋の入り口の壁に寄り掛かった天王だった。あの低血圧王がなぜ起きているのだろう。俺らなんか無視して寝ちまえば良かったのに。

「そうしたかったのは山々だが、このままこの害虫ども片づけないと寝られねぇからな」

心読まれた!?マジで!?

「お前は単純明快だから顔に全部出てんだよ」

あぁ、そういうことか、納得。そこまでは別にどうでもいいのだが。

「門戸らはどうしたんだ?」と部屋を見回すと、いや見回さなくても天王に気がいっていて気付かなかったが、かわらずベッドの上にいた。気絶してはいたが。

「あのあと、俺は眠気が頂点に達して眠っちまった。お前は傍観者なのに気絶ってどういうことだよ」

「あんだよ、急にそのこと言いだして。お前の恐怖がぶり返しただけだよ」

「根性無しが」

そう吐き捨てると右足の関節を折りたたみたてて、左足は関節を折りたたんで地面につけた。そしてたてた右ひざの上に右手をのっけて、その上に額をのっけた。

眠るのかと聞いたら、いや疲れたからこうしてるだけと答えが返ってきた。あっそうと返事をした。何の理由があるか知らないが別にきかなくていいだろう。

そこで水岡が起き上った。目を開けてあたりを見回し一瞬は何なのか理解できなかったようだが、運悪く左手の所にあったゴキブリの死体に左手で触ってしまった。

そのグチョリとした感覚で理解したのだろう。声を出すというよりは声帯がただ震えただけというような高い声があたり一面に広がり、隣も起こした。

やはり同様にこっちは天井に張り付いていた死体が、運悪く頭上に落っこちてくるというさっきよりも悲惨な結果になるという違いはあったが叫んでいた。

天王に感謝しろよ。寝てなかったから良かったが寝てたら今度こそ血祭りだぞ。

「うっさいな」の一言で叫び声はおさまったが口をとじてんんんんんんんんとか言っている。わかるかそんなもん。なんて言ったんだよ。

「もう起きたな。じゃあ俺は寝るから」

そう言って立ち上がり開けっぱ…というかさっき変形したとみられる傷跡により閉まらなくなっているドアを出て行こうとした瞬間、

「ちょっとまって」と女子2人が同時に言った。

「…………なんだよ、手短にしろよ」

と答えて立ち止まった天王はやはりイライラしていた。うっすら炎が見えたが俺は気にしない。

「周りを見て。この現状を。こんな部屋に女子2人で寝ろっていうの?」

そう言ったのは門戸だった。いや、額に変な液体つけてる人に言われても全然説得力無いんですが…。

「ここに変な液体つけてる奴に言われたって説得力ねぇよ」

額を指差して天王が言った。門戸は(正確にはそれに便乗して水岡も)ダッシュで台所へ向かって行った。

数秒後、手と額をきれいにした(水岡は額は汚れていなかったが)2人が帰ってきてた。

天王がいることを確認すると、指差して言った。

「とにかくっ、ここでは寝れないのであなたがた部屋を移ってください」

「……ハァ?どういうことだ」

「だーかーらー、むさ苦しい男共2人はどっちかにかたまって、私たち可弱い女子二人は空いた方で寝るから」

「……なるほど、どっちかにかたまれと?」

天王は理解したようだ。少し考えてこう言った。

「俺はめんどいから動かねぇぞ」「右に同じ」

俺はいい加減眠くなってきたので動きたくなかったことと、天王と一緒に寝たら俺は裏券を天王に喰らわせて、自分は地獄永久追放を喰らうだろう。そんなのは絶対に嫌だ。

じゃあどうしろって言うのよ!!と言ってきたので、俺は「あきらめて汚い部屋で眠るか、1人ずつ分かれて男子と眠るかだな」と言った。

2人は見合って、「せーのジャーンケーンぽん!!」と同時に言った。結果は門戸がチョキ、水岡がパーだった。

「やったぁー!!私は出本の部屋ね!!」

「…………………」

水岡…俺はお前のこと忘れないから……安心して地獄に行きな。

そう心の中で思いつつ、俺らは天王が部屋に戻り始めたときに自然と解散した。

<悪魔の手先 NO.9完>

=作者より=

今回はあまり長くなかったですね、基本出本視点で話が進行しています。

出本の考察はまた次回ということで……。そう言えばこのお話って、今まで書いてきたなかで最も長いのに最も見てもらった数が少ないんですよねぇ…一番の力作なのに………

それでは、このような拙い小説に時間をかけてくださったあなたに感謝を。次回乞うご期待!!


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