悪魔の手先 NO.12 作:キョン
次の日……
俺は最初に起きたようだ。誰も起きていない。なんか勝ったみたい。いや、何に勝ったのかは分からんけど。
そんなことより此処はまだ見つからないのだろうか。いい加減見つかるものだと思ったんだけど。
そんなことはいいや、とりあえず飯を……あ、俺作れねぇじゃん。どうしよ……。
天王を……いや、殺されるな。あいつの部屋に入るのは無理だから水岡も消えて……あれ?選択肢無くなった。
あいつも無理だったし、これもう無理じゃん。起きるの待たなきゃ……なんてことだ。
そう考えながら俺は昨日飯を食った部屋の椅子に座り、机に突っ伏した。
「あぁ〜腹減ったぁ〜」
唸っても腹に響くだけであり、空腹という現状脱出は不可能だった。あぁ〜、もしかして空腹っていうのは人生最大の苦痛だったりするんじゃないのか?もしかしたら。
「ぐあぁぁ〜暇だ〜暇な上に空腹だぁ〜、そして眠いぃ〜此処についてでも考えようと思ったのに、その気力も起きん〜」
あっさりと俺の考えは闇に葬り去った。おそらくもう出てこないだろう。
「くあぁ〜こんなことならまだ寝てればよかったぁ〜、もう動く気も起きん〜」
あれ?これ駄目人間の考えじゃね?とかいうことも考えたらが無視だ。
「しゃーない、ここで寝よう」
俺は机に突っ伏したまま睡魔との全面戦争に白旗を挙げたのだった。
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その数分前……
俺は隣で寝ている水岡を起こさないようにベッドを出た。
無論、外着のまま寝ていたから汗を掻いたうえ、昨日は風呂に入っていないので多少臭うかもしれないが、その辺は全然気にしない俺なので無視して外にでる。
外にはまだ薄暗い空が広がっていて、雨はあがったようだ。
俺は昨日の推理を確かめるため、この屋敷の外に出てある人間を探していた。そいつの名前は「大川」と言うらしい。
大川……門戸の故郷の近くに偶然にも同様に帰郷していて、出本の秘密の花園とやらに一緒に行った親友。
偶然にしては出来過ぎだ。百歩譲ってそれが可能だったとしても摩訶不思議な現象に2回も、しかも門戸と出本と一緒に遭うなんてありえない。
そしてその内容とはほぼ同様の内容だ。要約してしまえば、『周りの空間とは完全に隔離された別空間に入る』……。
こんなことは本来信じる質(たち)ではないのだが一つだけ仮説をたててみた。
その仮説とは『俺たちが見つからないのはその大川とやらに別空間に隔離されているからではないか』というものだ。
意図も理由も不明だが、何かする必要があるとすれば説明は多少強引だがつく。
そうしたらなぜこんな屋敷が、当初俺と出本に発見できなかったのかというのも、俺たちが救助隊等に発見されないのかも説明がつく。
前者は簡単にいえば『水岡と門戸にだけ発見できるようにした』のだろう。出本もなぜか「秘密の花園」とか言っていた隔離された空間を発見できていたし、おそらく大川の意思で特定の誰かには発見できるようにできるのだろう。そして途中で気付かせるために俺と出本にも発見できるようにしたのだろう。
後者の説明はしなくてもわかるだろうが、要するに此処はほかの人間には発見できない状態になっているからだろう。これで何でも説明がつく。
この建物の説明はまだつかないが、その辺は今現在発見した目の前にいる男に聞けばわかるだろう。
「なぁ……大川さん?」
大川とおぼしき男子はゆっくりこちらに顔を向けた。
そしてゆっくりと微笑んだ。
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同時刻……
「ふぁぁぁぁぁ〜良く寝たぁ〜」
「ホントねぇ〜」
女子2人の声が聞こえて俺は目を覚ます。
「おっ起きてたか。おはよう」
「あぁ、おはよう」
さわやかに挨拶してきた門戸に、本当に無口キャラだったのかと多少疑わしくなってくる。
次に目に入ったのは今現在、俺と門戸の母親的存在(俺がそう思っているだけ)の水岡だ。
「おはよう、天王は?」
「え?あいつまだ起きてないが」
ちょっと驚いた顔になり言葉を発してきた。
「嘘、ベッドにはもういなかったよ?」
俺は「じゃあ飯作ってんのかもな」と返し、「飯を作れ」というオーラを体中から出し、それに気付いたのか天王の確認なのかは知らないが、
「あぁ、じゃあちょっとキッチン行ってくるよ。ついでにご飯も作ってくる」
と言ってキッチンに一人で向かった。
門戸は俺の前の席に座り、こう切り出してきた。
「で、あんたはこの状況どう思う?」
「あ?どういう意味だ」
「説明しなくてもわかってんだろう?」
「クソ、無駄に鋭い奴め。あぁ分かってるよ。まぁとりあえず多少おかしいとは思うな。一晩経っても見つかんないってのは」
「ちゃんとこの状況のおかしさには気づいているか。ならこれを話しても大丈夫だね」
そういうと門戸は少々離れた位置にあった戸棚に歩いていき、手をかけて開けた。中は空だ。
そうすると、門戸は無言のまま戸棚を閉めて少し溜めを作った。その後
「よく見ててね」
そう言うと戸棚を開けた。そこには鉛筆が一本入っていた。
「っっ!!」
門戸はそれをつまみ俺に投げてきた。
俺は1回取りこぼしそうになり、あわててそれを右手で掴んだ。
どこからどう見ても鉛筆だ。だがあそこには何も入ってなかったはず……。
門戸は無言のまま自分の椅子に戻り、こう言ってきた。
「分かった?此処はもうあんたの思っている以上に異常なんだよ。ちなみにこれは昨日天王に教えてもらったことだけどね」
「………………」
俺は無言だ。門戸も無言。静寂が続く。
「…………これは水岡も知ってんのか?」
「あぁミズ?知らないと思うよ。まだ教えてないし」
「そうか……」
俺はまだ動揺していた。門戸は次にこう切り出した
「ミズにはまだ教えないでね。この状況が異常だって理解させてから教えた方がいいから」
「………………」
俺は無言。だが門戸は満足したように水岡の帰りを待っていた。
俺は水岡が飯を持ってくるまで、そこに立ち尽くしていた。
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同時刻……
大川とおぼしき男子はこちらを見て、微笑んだ後こう言ってきた。
「やあ天王君、君とははじめましてになるのかな?」
「………あぁそうなるだろうな」
大川とおぼしき男子は体を完全にこっちに向けて、
「そうか、君は知らないのか、僕を。でもね、僕は知ってるんだなぁ、君のことを」
「………ほぉ、何の事をだ」
「ははっいいよ、その反応。その明らかな敵対心。ゾクゾクするね。君について何を知っているか……例えば君は他人を本来は見下していることとかかな?」
…………なんだ、そんなことか。
「安心しろ、そんなことは俺を知っている人間なら知っていることだ」
大川と思わしき人物は「フッ」と鼻でこれを笑い、
「なら、何で今はあんなに楽しそうに出本たちと過ごしているのかな?」
「……あいつらは特別だ」
「なるほどそうかい。でも本来はスローガンのせいじゃなかったかな?」
「…………今は違うってことだ。あいつらと付き合ってたら楽しんでる俺がいたんだよ。 存外、他人も悪くないって思ったってことだ」
そいつは腹を抱えて「クックックックッ」と笑い、「なるほど、なら今後は学校でもうまくいくな」と関係のないことを言ってきた。
「それがどうした。そうかも知れんが、お前には関係ない」
「まぁそうだね、いいや。じゃあそうそう知られていない君の秘密を打ち明けちゃおっかな」
そいつは一瞬溜めを作り、信じられないことを言った。
「君は両親、そして実の兄を殺しているよね?」
俺はこの瞬間、目を見開き、息を忘れ、全身の筋肉を硬直させた。
そいつはにこにこ笑っていやがる。
俺はそのままの状態でしばらく立っていたが、やっとこさ喉からこれを引き出した。
「……それがどうした」
そいつはフフッと笑いながら、こう言ってきた。
「動揺は隠さなくていいよ。君は常にこの秘密を守ってきたもんねぇ」
俺はいい加減いら立ちを覚え始め、静かに、あくまで冷静に俺の怒りを込めた言葉をぶつけた。
「いい加減にしたらどうだ。お前が大川ってのは間違いないようだが、なぜこんなことをする」
大川はフフッと笑い、
「確かに僕は大川で合ってるよ。アイアム大川だ」
と言い、
「俺が…あ、一人称は俺にするよ、面倒だからね。 俺がこれをする理由は単純明快さ」
と続けた。そのあと、意味のわからないことを続けた。
「俺の母親を生き返らすんだよ」
俺は反応に困った。
「……はぁ?それと俺がどう関係するんだ。つーか母親を生き返らすってどういうことだよ」
大川はちょっと昔話につきあってくれよと言い、
「俺の母親は肺がんで死んでね。俺は小学校5年だったんだぜ?そんなの嫌で嫌でなぁ…」
「……俺は小5のころに両親を殺している」
「あはっ、そうだったね。まぁそれはどうでもいいんだけどさ。それで何とか生き返らせたいな〜って思ったわけよ。君にしてみりゃバカだと思うかもね。まぁ事実だけどね。
で、そんなときあるやつが俺の前に現れたんだよ。それは自分のことを『悪魔』とか言ってさ。どう見ても人間なんだけどさ。聞いてみりゃ悪魔ってのは悪いことをして死んだ人間らしいよ。
そんで、その悪魔が『契約』をすれば一つだけ願いをかなえてくれるんだと、俺は飛びついたね。これで生き返らせられる〜ってな。
その契約ってのはさ、意外と簡単で悪魔の望むことを一つ叶えることらしいんだね、その望みってのは」
ここで一旦言葉を切り、俺を指差した。
「お前に会うことなんだとよ」
「……………!」
「クックックッ、驚いた?」
「……………………」
意味が分からない。なぜそいつが俺に会いたがっているのだろう。そいつは誰なのだろうか。
「でもさ」と大川は言葉を続ける。
「俺はあんたを知らなかったし、会う方法もわからないしで困ったんだよ。そうしたら方法はこっちで示すって言ってくれるんだよね。
その方法ってのは、とある2人の人間にそいつを寄生させることらしいんだな。どうやらそいつは中学があんたと同じになるらしくてなぁ。
でもさ、悪魔ってのは寄生するには条件があるらしくてな。そいつがマイナスの記憶とやらを持っていることらしいんだわ。要するに暗い過去とか、恐ろしい過去らしいよ。
で、それを作り出す方法はあんたも知ってるだろう?あの謎の隔離空間だよ。で、トラウマになるくらいいやな記憶を刷り込んだんだよ。あいつらにな」
「……………………」
「そんな怖い顔すんなよ。で、そいつらに寄生させたってわけだ」
「……ちなみにそいつらってのは誰だ?」
大川はこっちを小馬鹿にするように、「わかってるくせに」と言ってきた。
「当然出本と門戸だよ。あぁ、そう言えばあいつらも呼ばないと。悪魔呼べないじゃん」
そんな事を言いながら大川は目をつぶりしばらくそうしていた。その後目を開け、
「はい、これであいつらはすぐにこっちにくるよ」
「……そうか」
その後、1分もせず2人はやってきた。
……水岡をひきつれて。
は?水岡?
大川も驚いたようで、「何であの子も来てんの?」と呟いていた。
どうやら急に外に出た2人が気になってついてきたようだ。
門戸と出本はもの凄いスピードでこちらに歩いてきて、水岡はハァハァしながらこっちに来た。そして、
「ハァハァ……あれ?何でここに天王がいるの?…ハァ…あとそちらのかたは?」
俺はちょっと強めの口調で、
「お前!何でここに来てんだ!」
と言った。水岡はビクッとして、
「え、だ、だって急に2人が外出るから何かあったのかと……ハァ…」
「……っこの馬鹿!そしてアホ!」
「えぇっ!?なんで!?」
俺はそれを無視してクソッと呟いた。
俺は大川に向き直ると、「こいつは関係ないよな」と聞いた。
「無論、俺も無関係者は巻き込みたくないのでね。あなたが殺されてもその方の安全は保証しますよ」
と、セールスマンのように言った。水岡は「え!?死!?」と言っていたが無視だ。
「門戸と出本も加えとけよ」
「はい、約束しましょう」
「……そうか、ならいい」
「あっ!そう言えば面白いことがあるんだよ。君さ出本と門戸に悪魔がついてますよ〜っていうヒントが有ったの知ってた?」
俺はこう答えた。
「知っていた」
大川は感心したようで、
「ほぉ、あんなのに気付いたんだ。まぁ、ただの偶然なんだけどね。なら説明はいらないか…」
水岡は「えっ?えっ?」と混乱していたがこれも完全無視。
「おい、大川。さっさと終わらすぞ。その悪魔とやらを出せ」
大川はフフッと笑うと、
「さぁ、もう出てきていいですよ」
目をつぶり右手を空中に振り上げた。
すると門戸と出本の体がふっと、まるで急に支えを失ったかのように倒れた。
そしてそこから黒い煙が立ち上ったかと思うと、それが人の体になっていく。実に不気味な光景だ。
水岡は何が何だかわからないといった体(てい)で、口を広げたまま突っ立っていた。
それが徐々に形をなすにつれ、俺はだんだんとそれが何であるかを悟ってきた。
「……おいおい………冗談……だろ……?」
そこには――――――――。
俺が殺した兄がいた。
<悪魔の手先 NO.12完>
=作者より=
うん、長いね。とっても長かったね。すいません…。
さぁ今回は意外と驚かれたかたも多かったのではないでしょうか?まさか悪魔とは……と思った方もいらっしゃるのでは?
でも、これの題名は一応「悪魔の手先」ですからね。そりゃでますよ。
今後の展開はほとんど読めない方が大半だと思いますが、どうか付き合っていただけると幸いです。
さて、そろそろこのシリーズもクライマックスです。
一体どのようにして終わるのか、そして最近気付いたのですが門戸のキャラが当初から完全崩壊していることはどうすればいいのか、
更に言えば初めのほう出てきていたナレーさんは一体どこに行ってしまったのか――――。
次回悪魔の手先NO.13乞うご期待!!(ちなみに、ナレーさんと門戸のキャラは話にまったく絡んできません。ナレーさんはあと一回くらい出したいです。)
↓(こんな偉そうにいうのも気が引けるのできちんとした言葉で謝辞しときます。)
それでは、このような拙い小説に時間をかけてくださったあなたに感謝を。次回乞うご期待!!
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