悪魔の手先 NO.13 作:キョン
天使―――――それは翼を生やした人間として描かれることが多い。
しかし、悪魔については人間としての形をなしていない。
基本的には日本の鬼のような外見であったり、エルフが黒くなったような外見であったりするが、人間として描かれることはほぼない。それはなぜか。
天使は「天からの使徒」と書く。やはり、人間はなんだかんだ言いつつも人間本位の考えで物事を考えてしまうのだ。
「神の使徒は下等な動物などより人間であるべきだ」…というのはさすがに言いすぎかもしれないが、先入観として神の使徒としてあるべき存在は人間であるべきというものを持ってしまっているのではないだろうか。
一方、悪魔は「悪の魔物」と書く。こちらは天使と正反対だ。「神に選ばれないものは人間ではない。人外の恐ろしい生命体だ」という先入観があるということである。
よって、人間と骨格等の作りは似ていても、耳が尖っていたり、尻尾があったり、時には大きなフォーク状の何かを持っている場合もあるだろう。
そういう固定観念が存在するからこそ、悪魔は人間として描かれないのだ。
しかし、人間は欲求というものが存在する。
争いと言う醜く、それでいて果てしなく無意味な存在と共に進化した生物だ。
「争いがなくなればいい」…などと言うゴミのような綺麗を言うつもりはさらさら無い。
しかし、これは人間が十分に醜い生命体だという証拠ではないのか。
それに対し、悪魔は一切悪いことを行っていない。
要するに悪魔は悪人を裁き、そして罰する職務を与えられた生命体なのだ。人間のように個人個人の意見をぶつけ合い、醜い争いを繰り広げるのではなく、過剰かもしれないが、それでも自分の職務をまっとうしているだけなのだ。これのどこに非があると言うのだ。
以上より、悪魔のほうが天使より高尚な生命体なのではないかと私は考える。
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「確かこんなことを言っていたな、兄貴は」
俺は目の前にいる死亡した実の兄にそんなことを投げかけた。
「そうだな、だから私は人間の姿のまま悪魔になれたのだろうな」
やはり兄だ。
そいつは明らかすぎるほど兄で、兄以外の何者でもなく、それ以上でもそれ以下でもなかった。
堅苦しい喋りかた、一切表情が現れない無表情端から端まで無表情だった。
しかし、俺は家族を殺している。無論、兄も同様だ。それがいまさら何の用があるというのか。復讐でもする気なのだろうか。
「いや、俺は復讐をしたりする気はさらさらない。いや、復讐と言うものを行うことができないからな」
?復讐ができないだと?そんなことはないだろう。それを望めばいい話なのではないのか?
しかし、復讐が目的でないのならどうでもいい。それならばなぜ俺の所に来たのだろうか。必要性はないはずだ。
「必要性が無い……確かにそうだ。だが、必要性があるんだ」
心を読まれたのか?Mind reading?
「そうとも言うな。だが正しくはそうではない。
お前、悪魔と言うのは何を食料としているのか分かるか?」
…はぁ?どういうことだ。
「そのままの意味だ。悪魔は何を食しているのか分かるか、と聞いているんだ」
「……知らんな」
兄貴は表情を変えず、
「確かにそうだろうな。では教えてやろう。
悪魔はな、人間のマイナスの記憶を喰うんだよ」
「……マイナスの記憶だと?」
「あぁ、正確には『正しいマイナスの記憶』だがな」
「……正しい」
「あぁ、『正しいマイナスの記憶』だ。実際に起こった誰からの関与も受けず、一切の変化もしていない。全てが事実の『マイナスの記憶』だけが悪魔の食料になるんだよ」
「……そうか」
どうでもいいな。
「どうでもいいかもしれないが聞いておけ。
その食料…要するに『マイナスの記憶』にも味があるのだがな、その味には自分が関連したものや、自分の親族の奴が関連した奴が高級らしくてな、美味なんだそうだ」
「……要するに兄貴は自分が関連したうえに自分の親族も関連している、俺の過去を喰いたいわけだ」
「そういうことだな」
意外だな、兄貴がそんな事を気にするとは。
「私だって不味いものを喰い続けられるほど図太いわけではないからな」
「……そうか」
「あぁ、だからお前に会いに来たんだ。ちなみに過去に関しての望みはできないからな。できていたらやっている」
「それくらいわかる」
「確かにそうだな」
「……分かった、少し時間をくれ。状況を整理したい」
「あぁ、分かった」
よし、状況を整理しよう。
まず、悪魔とやらは人のマイナスの記憶とやらを食べる。
それは特定の条件のモノのほうが美味く、その条件は俺の記憶に完璧に一致しているらしい。
よって俺の所に来て俺の記憶を喰わせろと言うことだ。身勝手な。
「……まぁ、別にいいが、喰われた記憶はどうなるんだ?消えるのか?」
「いや、消えはしない。特に変化もないままだ」
「そうか、なら喰えよ」
俺は手を両側に広げて受け入れる体制をとった。
「いや、無理だ」
「……はぁ?」
兄貴はなぜか自分から来たのに自分から拒否した。
「どういう意味だ」
「簡単なことだ、お前の記憶は間違ってるんだよ」
「……悪い、意味が全然理解できない」
兄貴は「はぁ」と溜息をつき、こう続けた。
「いつからお前はそんなに理解能力が低下したんだ」
「下がっていないさ。俺の記憶のどこに間違いがあるのかが理解できないんだよ」
「簡単なこと、お前は俺たちなど殺していないんだよ」
「…………………」
こいつは何を言っているんだ?俺はその記憶は鮮明に残っているんだぞ?
「その鮮明に残っている記憶が嘘だとしたら?」
「…………………」
「お前はそういう経験はないのか?確かこう聞いたはずなのに…という経験は」
「いや、そりゃなくはないけど」
「そういうことだ。お前は自分の記憶を自分を守るために改ざんしたんだよ」
「は………」
「もういい」
兄貴は目をつぶり両手の平を俺に向けて、俺の発言を制止した。
「これからどうせそれを正しく直しに行く。そこで確認すればいい」
「直しに行く……?」
「大川よ、これから弟が気を失うがその時は頼む」
「あぁ、了解した」
今まで存在がほぼ忘れられていた大川が答えた。
俺は門戸に声をかける。
「水岡、お前は理解できていないだろうが、大丈夫だ。すぐ終わる」
「え……あ……うん……」
やはり錯乱しているようだ。無理もない。
「水岡」
俺はもう一度声をかける。
「頼むぞ」
水岡は反応に困ったようで、「う、うん」とだけ答えた。
「準備はできたな、では行くぞ」
「あぁ」
「いざ、お前の記憶を戻しに」
<悪魔の手先 NO.13完>
=作者より=
どうでしたでしょうか?
今回はいろいろと話が飛躍しすぎてよく分からなくなっているかも……、いや、やっぱなってます。すいません…………。
というわけでついに次回真実が明らかになります。
でも、自分でも把握しきれていない部分もあります。どうしよ…。
それでも、ここまで見てくださった方に感謝をしつつ、全てをきれいにまとめますので、よろしくお願いします。
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