悪魔の手先 ”別れと真相と真の完結@1” 作:キョン
「それ、本当?」
私は目の前で気の毒そうにしている両親に尋ねた。怒気の入り混じった声で。
「……本当だ」
「…………………………」
「悪いとは思っている。だが仕方ないんだ」
「そんなの勝手すぎだ!!」
姉が机を叩いて抗議した。
「私はもう高2だし、私の学校はアルバイト大丈夫だから私だけこっちに残るよ!!」
「七海子はどうするんだ!!お前だけこっちに残ったところで根本的な解決にはならないだろう!!」
「じゃあ私と2人で残るよ!!」
父が珍しく本気で怒っていた。
「アルバイト程度で2人も養えるわけがないだろう!! 私は反対だから援助は一切しない!!不可能だ!!」
「御父さん!!」
「む……すまない、こっちが一方的に悪いのに」
「………………………」
父は椅子に深く座りなおした。
カチ、カチ、カチ、カチ……
時計の音がやけに大きく聞こえる。
「…………本当にもう変えられないの?」
私はまだ少し怒気の混じった声で尋ねた。
「……100%決定ではないだろう。ただし、それは天文学的確率だと思えばいい」
「……………………………」
「もう、無理だ。あきらめてくれ。私たちは明日この街を出ていく――――――――」
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「ほぉ、明日ねぇ」
天王はさも興味なさそうに答えた。
「うん、明日転校するんだって」
「ちょっと、それ本当なの?」
ミズは少々驚いた表情で尋ねてきた。
隣にはこちらも驚いた表情の出本がいた。
「本当だよ、こんなの悪戯でするわけないじゃない」
「理由はなんなんだ?」
出本が聞いてくる。
「お爺ちゃんがね、この前亡くなったんだけど、お婆ちゃんが一人になっちゃうのね。お婆ちゃんはちょっとボケが来てて、でも老人ホームは絶対に行かないって言い張るのよ。
だから私たちと一緒に住もうって話になったんだけど、お婆ちゃんは住んでるところから動かないって言い張るの」
「強情な人だな」
天王が呟いた。私は続ける。
「だからそこに私たちが行こうって話になったのよ。そこって意外と都心でここよりもお父さんの仕事場に近くなるし、お母さんは特別ここに未練があったりするわけじゃないからいいらしいんだけど……」
「なるほどね……」
ミズはそう相槌を打ってくる。
「お姉ちゃんは私よりここの記憶は長いからよっぽど嫌なんだろうね。今日は学校休んでるんだ」
「お姉ちゃん……?」
「あ、まだ話して無かったっけ? 天王は知ってるよね」
「死ぬまであんな人間は忘れないだろうな」
「それもそうね……」
私はあの時の光景を思い出す。
「しかし、急な話だな」
出本は沈黙を破るように率直な感想を述べた。私は答える。
「本当はもっと早くから決まってたらしいんだけど、言い出せなかったんだって」
「ふぅん…」
沈黙が続く。
「ま、いんじゃねぇの? 人間は出会いと別れで成長していくともいうことだしな」
そう言ったのは天王だった。
「別にここにこだわる必要性もないし、初めは辛いかも知れんがしばらくしたら忘れるだろうしな」
「……そうかもしれないけど………」
確かにそうかも知れない。いや、そうだろう。ここにこだわったところで何かが変わるわけでもない。だったら早くむこうに行って慣れてしまうほうが得策ではある。
でも……………
出本は天王に何やらこそこそと話しかけた。天王も小さな声で答える。出本は「駄目だこいつ」とでも言いたげな表情をして話をやめた。
「あのさ、ならお別れ会みたいなことをした方がいいんじゃない?」
提案したのはミズだった。
「あ〜いいかもね。それなら今日の放課後天王の家に集合ってことで」
「何で家なんだ」
「だって広いじゃん。他にも人呼んでさ〜」
「そんなに人呼ぶんじゃねぇぞ、防音って言っても限度はあるんだからな」
その後しばらくその話しで盛り上がっていた。
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放課後……
「お別れパーティーin天王家〜!!」
出本が珍しく英語を間違わずに話した。
「しか〜し!!人が全然集まっておりません!! なぜでしょうか!!支持率ないんでしょうか!! それでも気にしないでやっていきたいと思います!!」
「まぁ、家知ってんのって教師以外お前らしかいねぇからな。全員こんな未知の世界に踏み込めなかったんだろうな」
俺は補足した。
「と、言うわけでまずはクラスメイトからの寄せ書きです!!
『向こうでは静かにやってくれ』『しばらく忘れないよ!!』『つーかあんまりいい思い出が浮かばない、と言うか思い出が無いのだが……』『俺たちの名前って知られてないんじゃないの?』等々、あまりいいことは書かれておりません!!」
「うっさい、黙れ」
出本は無視して続けた。
「そんな中、あなたと最近最も交流があった私たちからの文章は、
『ずっと忘れないよ!! byミズ』『とりあえず家の魚買ってから転校してくれ!! by俺』『特になし by天王』です!!」
「ミズ〜!あなただけが頼りだよ〜!」
「お〜よしよし、そうだね〜『特になし』は流石にないよね〜」
門戸は抱きついてきた水岡の頭をなでながら、俺に異様に冷たい視線を向けてきた。
「だからあの時言ったように、人間は別れを繰り返してだな……」
「うわ〜ん、い〜じ〜め〜る〜!!」
「いや、いじめてはいないのだが……」
しかた無いので俺は寄せ書きの俺の部分を一旦消して、さらさらと別のことを書いた。
『無病息災』
「もう少し書くことないの!?」
門戸にキレられた。そんな事言われてもね……………
出本がこそこそと耳打ちをしてきた。
「おい、あの時言ったこと忘れたのかよ」
「あ〜覚えてるが、お前の考察だろう?信じれるかよ」
あの時のこととは、テスト勉強を教えた後のことだ…。
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「おそらく、いや100%水岡はお前のことが好きだ!!」
これは、あいつが提案してきた『俺のことが好きな変態物好きは誰か』に対しての、こいつの回答だった。
「わかった、一回脳外科手術を受けてこい」
俺は適当にあしらった。
「あ〜!お前信じてないな!!」
「信じれるわけねぇだろうが!! あいつが?笑わせるな。無い無い、あいつみたいな『I am a goddess』みたいなやつが恋とかない」
「ゴ、ゴット…?」
「"goddess"女神様ってことだ。そんなのはどうでもいい、お前はあいつが恋とかすると思うのか?思わんだろうが」
「いや…………絶対あいつって逆に恋とか大好きだと思うぞ、なんか少女漫画とかいっぱい持ってそうだし……」
「む…………」
確かにそうだあいつの部屋は、いかにも女子!!っていう雰囲気だった。しかし、いや、でも、
「あいつ、本当にお前のこと好きだと思うぞ。 お前の顔見て動揺してたりするしな。 お前もおかしいと思ったこと一回もないのか?」
ある。確かに「どうしたこいつ、病院行った方がいいんじゃねぇの?」と感じたことは多々ある。
「わかったか? どうしても違うと思うならそう思えばいいが。 つーかそんなに知りたいなら本人に聞けばいいんじゃねぇの?」
「あ〜まぁ聞いてもいいが、違かったらただの妄想壁のあるやつってことになっちまうぞ」
「じゃあ俺が聞いてやろうか?明日にでも」
「できるんならやってみろ」
「よし、じゃあ聞いてやるさ」
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「そういやどうだったんだ、結果は」
俺は出本に尋ねた。
「いや、それがまだ聞いてないんだわ。最近いろいろあってさ、委員会とか」
「ちっ、とことん使えない馬鹿だな」
「失礼な!!」
「それ以外にどう言えと? もっと根性出せや」
「くっ………」
出本は悔しそうに顔を歪めると、
「よっしゃ!! なら今俺がここで聞いてやるさ!!」
「……別に止めはしないが、発言に気をつけろよ。とんでもない地雷踏む可能性があるからな」
「何に注意すればいいのかは分からないが、……生きて……帰ってくるさ……」
「出本……ってなると思うのか?さっさと聞けや」
俺は冷徹にそして冷静に出本をあしらった後、無理やり発言権をつぶして水岡に質問させた。
「よっしゃ、なら最後ってことで水岡に言っておきたいこととかないか〜」
お、なるほど、これなら最後だから聞きにくいことでも聞ける雰囲気を作り出せるな。
「む……誰もいないか、なら俺が質問しよう」
出本は一旦くるりと首を回すとこう言った。
「お前、ぶっちゃけ天王のこと好きだろ?」
単刀直入過ぎだな。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
うん、そうなるよな、そうなると思うよ、俺も。
「ななななな何を言ってるのかな?」
「その動揺ぶり……ビンゴだな!!」
「にゃあぁ!!ちっ違うよ〜!!」
……にゃあぁ?なんだそりゃ。
「いいっていいって、もう引っ越しちゃうんだぞ?気持ちを伝えなきゃこの鈍感まぬけは気づかんぞ」
「失敬な」
俺は一応注意をしておく。
「で、どうなんだ?」
出本は嫌な笑みを浮かべて、執拗に回答を迫る。
「ううぅぅぅ…………」
動揺と葛藤が手に取るようにわかる。さっさと言っちまえばいいのに。めんどい。
「…………………………よし」
しばらく黙ると意を決したように水岡は俺に向き直った。
「私は……あなたのことが……」
顔が赤くなっている。俺じゃなくて、水岡が。
「私は……」
さらにたっぷりと間を開けると、
「私は、あなたのことは友達としてしか見ていません!!!!」
とても強い否定の言葉が聞こえた。
「あぁ、そう」
俺は特別ショックを受けることもなく、適当に流した。
「……え?なんかないの?」
「……なんかって何だよ。『そ、そんなぁ、俺は君のことが好きだったのにぃ〜』とかやってほしいのか?なんならやってやろうか?」
「ふにゃあぁ!!べ、別にそんなことやんなくていいよ!!」
「あっそ」
俺は適当にもてあそんだ後、「よし、そろそろ解散とするか」と告げた。
出本と門戸はやはりさびしいようで、最後まで「離れても連絡よこせよ」的なことを言っていたようだ。
水岡は笑顔で振舞っていたが、一瞬見せた悲しそうな顔は、おそらく見間違いでは無いだろう。やはりこいつもさびしいのだ。
そして、次の日がやってきた……
<別れと真相と真の完結 @1完>
=作者より=
結構長くなってしまいました……。
ウソン!本当は一話予定だったのにぃぃぃぃぃぃ!!
しかしまぁ次回完結するので、よろしかったら最後までお付き合いくださると幸いです。
それでは、このような拙い小説に時間をかけてくださったあなたに感謝を。次回@2(真の完結編)です!!乞うご期待!!
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