クリスマスプレゼント  作:高杉伸二郎

 静岡の親戚に遊びに行き、夕方になって掛川に帰るため、JRに乗った。学校が冬休みだったので、列車はそう混み合うこともなく、座ることができた。焼津、藤枝と駅を過ぎるに従い、空席は目立ってきた。二人掛けの席が向かい合わせになっているため、乗客はそれぞれ4人分のボックス席に各1人の割合で陣取った。私も掛川駅に着くまでまだ30分ほどあるので、足を向かいの席にあげ、眠るまでもなく目をつぶっていた。
 
 ガサガサと紙のすれる音がしたので、目を開けると、右のボックスに座っていた、上等とはいえないが、小綺麗に洗濯された労働服に身を包んだ中年の男性が、新聞紙を取り出し、これを丁寧に折った後、折り目に沿って四つに破り前の座席に並べている。
〈何をするのかな?〉と何気なく横目で見ていると、ポケットからおもむろに小さな袋菓子をとりだし、新聞紙の上に中のビスケットを勘定しながら分けていた。ほぼ均等に分け、しばらく眺めていたが、その中のいくつかを移し替えて一つ一つ丁寧に包んでいる。ちょうど粉薬を薬包紙につつむようにしている。包み終わったら、これを重ねて左右のポケットに分けて入れ、上から確かめるように、何回も軽くなでていた。
 
10分ほどして列車は停車し、菊川駅に着いた。男は下車しポケットを押さえながら足早に去っていった。
 私は次の掛川駅で降り、プラットホ−ムから改札に向かって歩いていたが、前を行く人がケ−キをぶらさげている。その前のもう一人もケ−キを持っているのに気がついた。
〈そうか、今日はクリスマウイブだったのだ〉
 さきほどの男が何をしていたか理解できた。

「ただいま、さっき、帰ってくる列車の中で、新聞紙にビスケットを少しずつ分けている人をみたよ。きっと子供にあげるクリスマスプレゼントなんだ」
「そうね。うちでは昔からクリスマスなんか関係がなかったわね。時代が時代で、ビスケットどころか食べるものに苦労したからね。でも最近はクリスマスプレゼントも派手になりどこでもお菓子やおもちゃをあげるようになったようだわね」
「でも今日はジ−ンときたね。駄菓子を大事にポケットにいれて、子供たちの喜ぶ顔を想像していたみたいで、楽しそうに帰っていったよ。あのおじさんは素晴らしい」
「何を感動しているの。でもうちの子は何も欲しがらなかったのは、周りも皆同じ環境だったからだわ」
 
 その後、私は子供を持つ親になり、クリスマスに必ずしもいつもプレゼントをしていたわけでない。形だけでも子供を喜ばすことを考えればよかったと、あの時の男を思い出す今日この頃である。


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