エイリアン大遭遇 作:Kiyoshi
エイリアン大遭遇 Kiyoshi
2009、4月忘日、ひるさがり時、日課の街歩きの休憩站オアシスにたどり着きホッとする。数年来行き付けの庶民飲食店である。土日ではないので、長い廊下に並べられたテーブルには空席が多い。
先ず紅茶の冷凍タンクへ茶を汲みに行く。紅茶自身が結氷して褐色の氷が浮かんでいる。アイスケーキーみたいで、此れは目指す紅茶だ。氷ごとコップに汲みこんで独り占めのテーブルに戻る。チビリチビリ甘味と香りを楽しみながら、何時ものように廊下の天井を見上げる。
この天井は何故かツバメ達に気に入られ、使用中の巣が二つ、空き巣が一つ、営巣半ばで放棄したのが二つもある。使用中の巣では卵がかえっているらしく、親燕が巣から頭を覗かせている。二羽で抱卵を交代しているようだ。
天井に気を取られている私の前に人の気配を感じて視線を目の前に移した。
降って湧いたように、いつの間にか目の前に三、四歳位の縮れた短髪の可愛い童女が私に微笑んでいた。昔のベッティ嬢を見る気がして私は嬉しくなって微笑みを返した。
やがてこの子は何かを私に話しかけた。が何を言っているのか判らない。「え?なに?」と聞き返した。とその子は笑みを続けながら又同じ事を言うた。やはり分からない。
私はそろそろ自分の耳に自信を持てなくなった。自分の耳はまだまだしっかりだとは思っているが傍からは耳が遠いと言われている。
私は聞き耳を立てるため、上半身を前に乗り出す。すると今まで立っていたその子も私に習って、椅子に掛けようとするが、椅子は尻よりも高い、其の子は右尻の半分を椅子に引っ掛け、左足のつま先を床に立て、両肘をテーブルに立てて私に顔を近ずけた。
「ねえ、ねえちゃん、もう一度言ってくれないかなあ?」
と済まなそうに頼んだ。と直ぐに彼女は笑みをたたえたまま、同じ分からん事を言った。
此処まで来て、私はある想像に辿り着き愕然とし、驚きの声を呑み込んだ。
つまり、この子は機械で物を言うているのだ、その機械の電子回路に故障が生じ、同じ箇所をスキャンしているので同じ事を喋っているのだ。 恰も昔の音盤(レコード)で音溝にキズが出きると針は同じ箇所から音を拾うので同じ音の繰り返しだ。
私の想像は更に飛躍した。あの、何度繰り返しても分からなかった、あの言葉は大変な事に、実は宇宙語、「宇宙語だったのだ!」。其の次の自分の結論に、私はオドロキの声を飲み込んだ。
大変だ「この子は宇宙人だったのだ」。「エイリアンの子だったのだ」。
私はその子が無性に愛おしくなって来た。思案が脳裏を駆け巡った。この子に連れはいるか? 降って湧いた様なベッティ嬢だ、連れは居ないだろう、どうするか? 家に連れ帰ろうか、誘拐か?どうしたものか? 情け掛けたが身の定め? いやいや、身の破滅かも。
思案に暮れて居た所へ、ギョウザを詰めたビニール袋を提げて老婦人が足早に腰を低くして私達のテーブルへやって来た。「すみません」と謝りながらその子を連れ去ろうとしていた。
私は慌てて「おばあちゃん、この子何を言ってるのか分かりませんが…?」、婆ちゃんは笑いながらその子を見下ろした、するとベッティちゃんは又も例の宇宙語を放送した。婆ちゃんは、「あゝ 《あたし、ばあちゃんと一緒に来たのよ》 と言ってるのですよ」。
なんと私はこんな他愛ないコメントに振り回されていたのだ。
婆さんは私に会釈してその子を連れ去った。その子はと言えば私に背を向けたまま、バイバイするでもなく、振り返りもせずスタスタと去って行く。呆気ない別れであった。二人は道路を横切り向かいの横丁へ消え去った。
私は呆然と二人の影を追って、又も気がつかなかった事に気付いて再び愕然とした。
あの婆さんは宇宙語を地球語に翻訳した。婆さんも宇宙人だったのだ。そして私をもっと驚かせた事は、婆さんの歳と身なりからして彼女は竹取物語の「嫗(おうな)」と吻合する。ならばあの子は、実に驚くべき事に・・・・かぐや姫?「かぐや姫!」だったのだ!! そして二人の連れ去った先は「おきな(翁)」の待つ星、月なのだ。
それから毎日私はあのツバメの店で密かに「かぐや」の君を待った。強い願望は夢を実現させる力を持つと信じながら。
時恰も、日本の月探査機「かぐや」が月の軌道を廻っていた。機はハイビジョンカメラを搭載して鮮明な月面写真と「地の出」の写真を地球に送信していた。
私は「Youtube」で鮮明な地の出をキャッチした。漆黒の宇宙をバックに月平線の彼方から、青と白の混ざったビー玉の様な神秘な美しさをたたえて地球がゆっくりと昇る。まことに蠱惑的で幻想的なイメージだった。
「かぐや」の君も月からこの感動のシーンを見つめていただろうか?。彼女はその美しい星で遇った私の事を、をふと思ってはくれただろうか? . Kiyoshi
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