片想い 作:高杉伸二郎
僕が小学校6年とき、我が家で柴犬を飼うことになった。名前はブラウン。体は茶色の毛で包まれていて、目が大きく愛くるしい。
姉、僕、弟の姉弟3人が犬の散歩を交互に引き受けることにした。最初のうちは、
「私が代わって散歩に連れて行くわ」
「僕が散歩に連れて行ってあげる」
などと皆がブラウンの散歩をしたがり、一人でなく、二人、あるいは三人が一緒について散歩にでかけたものだった。
数年経つと、ブラウンが「散歩に連れてってワンワン」と泣いてもみな面倒だと言って、散歩を嫌がるようになってきた。
ところがそんなある日から、中学2年になっていた弟が「僕が行くよ」と散歩を積極的に買って出るようになった。
「ふしぎだなあ、今まで面倒だと言っていたのに、急にブラウンの散歩をひきうけるようになった」
「心境の変化だわ」
「おまけに散歩の時間が随分長いよ」
姉と僕はこんな話をしていた。
(こんなに長い時間どこを散歩しているのかなあ)と不思議に思い、ある日弟の後をつけていった。
弟はある家の前に止まって、じっと窓を見ている。しばらく経つと、歩き出し、また先ほどの家の前に来て立ちどまり、じっとしている。(あっ、きっとそうだ)この家に弟の同級生の女生徒がいたことを思いだした。彼女が好きなのだ。
彼女は(色はホワイト目はパチリ、口もとしまって、くれないの,あふるるばかりの愛らしさ)とどこかで聞いたことのある唄の文句にぴったりだ。まさに弟の片想いというものだろう。ストーカーと言われるかも知れない。まずいな。でも何もしない、ただちょっとでもその姿が見たいと言うことだけだろうが。
思い切って弟に聞いてみた。
「あそこの女の子が好きなんだろう。でも犬の散歩をしながら彼女の家の回りをうろつくのは、よくないよ」
「……」
「無理ないよな。好きなら当たり前のことだ。しかし相手の家で気味悪がられても困るから、立ち止まらないほうがいいよ」
「……」
それからも、しばらくはこの行動が続いたが、そのうちいつの間にか犬の散歩は交代制にもどった。
一時の恋だったかと、今では弟との笑い話になっている。
コメント
1点 ななか 2011/03/13 18:21
高杉さんの作品いつも長いですね…。
sisanan 2011/03/19 21:45
ぶっちゃけそれがどうしたとしか言いようがない。