捨て猫 作:高杉伸二郎
「お母さん、猫拾ってきたの。可哀想だから飼っていいかしら?」
小学校5年生の妹が白に少し黒トラ模様が入った子猫を抱えていた。
「うちには犬もいるし、世話が出来るかしら。かわいい猫ね。一体どこで拾ってきたの?」
母はちょっと迷惑そうな顔をしていた。
「表の道のまん中で、男の子が大勢でこの猫を投げっこしていたの。あんまり可哀想だから、私の猫だわよ、と言って持って来ちゃったわ」
「まあ、仕方がないね。おなかが空いているようだし何か食べさせて上げようね」
「ご飯の残りにみそ汁でもかけてあげようか」
それからその猫を我が家で飼うことになってしまったが、どこかの飼い猫だったらしく可愛い顔をしていて、よくなついた。小さい猫なので、名前をチビと名を付けた。
「あれ? 畳の上に茶色い汁がポツポツ落ちているが何だろう」
「ふとんの上にも汚いものがついている。あっ臭いよ」
よくみると猫の糞らしいものがあちこちに散らばっている。べたべたしている。チビの尻をみると真っ赤に腫れ上がっていた。
「やれやれ、チビのウンチだ。慢性下痢だよ。それで捨てられたのかもしれないな。どうしよう」
「家中ウンチ垂れ流しでは困るから土間に猫の家を作って犬みたいに縛っておくしかないわね」
母は首輪をつくり、それに紐をつけて飼うことにした。消化のよいものを粥にして食べさせ下痢を治そうとつとめた。ペットを扱う動物病院は近くにない。
“ニャー、ニャー、ニャー”夜中も泣き続けるので、うるさくて寝られない。紐を解くとまた家の中を汚されるので、そのまま我慢していた。すると3日ほど経ったら泣くのを諦めたのか、やっとおとなしくなってきた。
「あら、猫が犬みたいに縛られているわ。よく泣かないでおとなしくしているわね」
我が家を訪れる人がみな珍しがった。
「この猫は慢性下痢なのよ。あちらこちら汚すので仕方なく縛っているの。最初3日ほどは夜中まで泣いてうるさかったのに、今では観念して座っているのよ。こんなにおとなしくして」
家族で可愛がり一生懸命の努力の甲斐あってか2か月ほども経ったら、少し便がよくなり、下痢がかなり治ったようだ。
「もう自由にしても大丈夫かな。縛っておくのも始末がいいがね」
紐をほどくとチビは恐る恐る歩き出し、そのうち元気に飛び回った。
「夜中に寝ていると布団の上で、もそもそと何かが動いている。
(何だろうと)首をあげてみると、
「キャー、蛇だ、チビが蛇を口にくわえているわよ」
姉が大騒ぎした。
田舎なので家の敷地内に竹藪があり、この竹藪に住みついている蛇を、布団の上に持ってきて、得意そうに「ニャー見てごらんよ」と言っている。その後何度も、助けて貰った御礼のつもりかしらないが、家中で大騒ぎだ。
その後も、まだ家をたまに下痢をしてウンチで汚すこともあり、来客時や夜などは首に紐をつけて土間に縛っておいたが、泣きもせずおとなしかった。
僕は高校を卒業し、家を離れていたが、久しぶりに家に帰ったら、チビがいない。何か寂しい思いだ。ふと庭をみると、片隅に、妹が書いたらしい「チビの墓」という墓標があった。
コメント
1点 sisanan 2011/03/19 22:00
猫は自分の獲った獲物を他人に見せたがる習性があるらしいですね。