私はあの時死んでいた?その4 作:高杉伸二郎
私が小学校5年生の時だった。その秋、近くの屋敷の庭に、大きな柿の木があり、実が一杯なっていた。『富有(ふゆう)柿』と言うそうだ。ボ−ルのように丸くて青いが、中に黒い斑点があり、甘いそうだ。みるとその横に高い大きな蔵があり、その屋根に登れば柿の二つや三つは取れそうだった。
(あの蔵の横に沿って木があるが、あの枝を伝って屋根に登れば柿はとれるだろう)と考えた。
一人で実行に移した。屋根に到達し、四つんばいで登り3個ほどの柿の実に手が届きそうなところまできた。
やっと足を伸ばし屋根に立ち上がろうとした。
(あっ!危ない!)
屋根は思ったより傾斜がきつく、足がすべった。スルスルスル……。
(もうとまらない! きゃ−助けて!)
屋根の下には、大きなとがった石がゴロゴロころがっていた。落ちると大けがをする。打ちどころが悪いと怪我どころではない
(死んじまうよ!)
もう一つの蔵の壁が目の前に見えた。足を伸ばし、運を天にまかした。つま先が隣の蔵の壁に当たった。足をつっぱり、蔵と蔵の間に体を支えた。かろうじて落ちるのを食い止めたが、身動きが出来ない。
(助けてくれ!!)からだじゅう力を入れているので、大きな声はでない。足は支えきれずブルブルふるえる。
(落ちる!!)と思ったちょうどその時、そこの屋敷の主人が通りかかった。
「危ない!!しっかりしろ」
急いで近くに積んであった藁の束をかかえて真下の石の上に放り込んだ。更にまた藁の束を取りに行った。その時遂に力尽きて落ちた。足から落ちた。
急いで救急車で運ばれた。足腰が重症だったが、命拾いした。あと数秒遅く打ち所が悪かったら、石に直撃して命を落としたかもしれないと言われた。
昔の子供はよく屋根に登り遊ぶのがすきだった。「親は危ないから止めろ」とは言わない。「屋根瓦が傷むから降りてきなさい」と叫んでいたものだ。
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