せんせい  作:オルカ


りんごを知っている人と知らない人がいました。

りんごを知っている人のなかに、りんごが大好きな人がいました。

りんごが大好きな人は、りんごのみりょくを、りんごを知らない人に教えたいと思いました。

「りんごは赤くてまるくて、とてもおいしい」

それを聞いた人々は感動し、まだ見たこともないりんごに想いをはせました。

りんごが大好きな人は、満足して、帰っていきました。



ある人にとって、赤とはきれいな夕焼けの色でした。

ある人にとって、赤とは燃える炎の色でした。

ある人にとって、まるとは月の形でした。

ある人にとって、まるとは河原の石の形でした。

ある人にとって、おいしいとは母のカレーの味でした。

ある人にとって、おいしいとは森の水の味でした。



ある人にとって、りんごとは夕焼け色の月のような果実でした。

ある人にとって、りんごとは炎のようにきらめく石のような果実でした。

ある人にとって、りんごとはお母さんの料理の味の果実でした。

ある人にとって、りんごとは清らかな森の味の果実でした。



彼らは本物のりんごを見ました。いぶかしげに眺め、ひとくちかじりました。


「わからない」


ひとりが言いました。


「わからない」


ふたりめが言いました。


「ちがう」 「ちがう」 「これはりんごではない」


さんにんめも、よにんめも、ごにんめも言いました。

だれひとり、それがりんごであることを認めませんでした。


―――――――――――――――――


命の大事さを知っている人と知らない人がいました。

命の大事さを知っている人は、命の大事さを知らない人に、命の大事さを教えたいと思いました。

しかしながら、命の大事さを知っている人にはもうしゃべる元気がありません。

そこで彼は、命の大事さについて、ながいながい本を書きました。

自分がいなくなっても、命の大事さを教えられるようにと。

題名は、「命は大事です」。



100年たって、大人は古い本を見つけました。

作者は、昔のえらい人です。

題名は、「命は大事です」。


大人は、どうしてか、命は大事にちがいないと思いました。

大人は、命の大事さを子どもに教えたいと思いました。

大人は、作者の名前と題名を覚えました。


「命は大事です。昔のえらい人がそう言いました。」


大人は満足して帰っていきました。



「わからない」



そして、子どもは、口をそろえて言いました。








コメント


名前
評価

Novel Place CGI-Sweets