憂鬱  作:すざp

6時10分、スマホは一回目のアラームを高らかに響かせる。
そしてすかさずスヌーズする俺。

6時15分。二度目のアラームが鳴ると、渋々とベッドを降りてジャンパーを羽織る。
充電器を引き抜き階段をおりる。

朝食を喉に通し、また憂鬱な一日が始まる…

だが今日はいつもと違う。
いわゆるセンター試験というやつらしい。全国の高校3年生の多くがこれを受ける。俺もまたこれを受験するらしい。
なおさら憂鬱なわけだ。

氷点下のなか息を白くしながら列車を待つ。いつもより人が多い。
今日くらい車両増やすなり増発するなりすればいいものを…

スクフェスをシャンシャンし、
為替レートと時事に目を通し、
音ゲーを弄ぶと終点についていた。

ここからバスに乗り換える。
分からねえ。あの列かな?
制服きた受験生たちを追って、
人口密度の高いバスに乗る。

今日は社会、国語、英語だったっけ

眠気の覚めない頭を振って
曇り空を見上げると

なんかすげえ能力が覚醒した感じがした。

時刻は9時39分。
試験開始から10分が経過しようとしたそのときだった。
突然の目眩に襲われ俺は頭を抱えて机にとっ伏した。

しまった…!!
俺は目が覚めると、気持ちの悪い汗と焦りを背負いながら時計を見た。

時刻は18時をまわった頃だった。

混乱しながら窓の外を眺めると、既に空は闇色に染まっていた。俺は慌てて問題用紙を開く。

ナニコレ。なんだこれは。
今俺の目の前にあるのは地理の問題ではなかった。英語だったのだ。
手元には2本の鉛筆と消しゴム。そしてリスニング用のイヤホンとレコーダーが置かれている。
そしてまたしても俺に衝撃が駆け巡る。なんと手元にある問題用紙には完璧な解答の跡。マークシートはすべて的確にマークされていたのだ。

…嘘だろ!?俺は半ば興奮と不安で身震いしながら状況を把握しようとした。
間もなく試験終了のチャイムが鳴った。

「鉛筆をおいてください。」
試験官の合図が室内に響く。訳も分からないままマークシートとレコーダーが回収されていった。
「お疲れさまでした。以上で本日の日程は終了です。明日の開場は9時になります。」
試験官の機械的なアナウンスが終わると、俺は瞬速でカバンを開けた。

そこには今日受けるはずだった全科目の問題用紙がまとまっていた。
食いつくように問題用紙を見ると、それもまたすべてに完璧な解答。

たまたま受験番号の近かった奴が声をかけてきた。
「あーもうだめだわうっわーしくったわリスニングわっかんねえよ…」
そんなことを垂れる友人と共にバスに乗った俺は、しばらくしてやっとこの怪奇現象を解釈した。

(これ、キタんじゃね…!!)

今日は、あれだ。たぶんあの、あれよ。数学と、理科と。

気づいたら完璧な解答とともに試験が終わっているっていう奇跡の味をしめた俺。

奇跡の再びの到来という爽やかでやましい願望を抱きながら二日目の朝を迎えた。

9時30分。二日目最初の試験が開始された。

問題用紙を開き、暗記した周期表を書く。デンシハイチ…?ジュラルミン…?
呪文のような問題文を読みながら、まだかまだかと目眩が来るのを待った。

開始から20分が経過した。だが俺の意識は途切れず目眩の襲来もない。

40分が経過した。まだ来ない。
生物基礎は雰囲気でいけるつもりだったため暗記してない。

結局奇跡の起こることなくマークシートは回収されてしまった。

休憩時間は30分。俺はなんとか奇跡の再来を呼び起こそうと精神を統一する。糖分が足りないのか!イチゴ味のキャンディを口に放り込み、思考など上の空で薄い参考書を眺めた。

11時5分、数学の試験が始まった。
ページを開いた瞬間、俺の両目を強い刺激が襲った。
ウッ…!!
ちょうど目薬とCCレモンを間違えてしまったような感覚だった。痛いのとシュワシュワ弾ける感じ。

目を開けると痛みは消えていた。
目にはさっぱりした、高度8000メートルを吹き抜ける偏西風くらいの爽快感だけが残った。
次の瞬間俺は目に映るものに衝撃を受けた。

解答番号の隣に丸く囲まれた番号が!!!

「見える…!見えるぞ!!」
と叫びたくなりつつ
半信半疑のまま俺は第一問を解き始める。(1)(2)(3)…そこまで解いて、俺の期待と不信は確信へと変わった。
これは答えだ…!!!!

3、9、3、9、2、4、-、8…
俺は問題用紙にある答えを速攻でマークシートに埋めた。鉛筆が唸るのがわかった。
俺は過去にないスピードでマークシートを塗った。
もちろん問題用紙に筆跡を残すことも忘れない。

かつてないほどのスピードで完璧な解答をしたマークシートは

美しかった。

余韻に浸りながらゆっくりとすぎてゆく残りの39分間ほど、俺の脳が満足感に満たされたことはなかった。

終了のチャイムが鳴る。
「鉛筆をおいてください。」
試験官の合図が室内に響く。

最高のマークシートは俺の目に輝きを残したまま回収された。

17時40分。理科の試験終了のチャイム。そしてセンター試験終了の合図だが響く。

「お疲れさまでした。全科目は終了しました。忘れ物のないように帰ってください。」

機械的なアナウンスとともに、俺はこの完璧な試験の終焉に酔う。
すべてのマークシートにすべての、完璧な解答がなされた。こんなにも素晴らしい試験を経験できた者はきっと他にはいないだろう。



お疲れさまでした。



この世界は美しかった。
















そんな感謝に満たされながら、
俺は目を覚ます。

今日は1月15日。明日はセンター試験だ。


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